ロロノア家の人々

    “お父さんの好きなもの”
 


イーストブルーの東端に位置する和国は、
四季折々の風情もそれぞれに豊かな国であり。
六月のこの時期は、例年ならば…季節風の影響とかで長い雨が続くのだけれど。
今年はまだまだ、その兆候もないままで、
春の終わりを引きずったままのよな、爽やかないいお日和が続いてる。

“鬱陶しいのは敵わないが…。”

とはいえ、全く降らぬも困ると。
土手になってるあぜ道を、のんびりとぽとぽ歩むすぐ傍ら、
早苗の植え付けを待つ田圃が広がっているのを見渡しながら、
自然な感覚でそうとも思う。
近年、科学とやらの発達も目覚ましく、
あの“グランドライン”へも、
穏やかなとば口辺りまでなら旅行感覚で運べるほどになったれど。
この小さな農村にはそんな恩恵もまだまだ遠く。
昔ながらの手法にて、のんびりと農作物を作って生計を立てている。
住まわる人らもおっとりしており、
欲をかいての小賢しく、揉めごと起こすこともない。
ささやかなことへと、皆で笑ったり困ったりしながら、
去年一昨年と同じよな、今年来年を過ごす村。
それでもたまには、外の世界の時勢の流れも及ぶよで。
時折遠方から、政府や海軍に追われた末の落ち伸びてか、
無頼の輩が通らないでもない。
そんな輩が金品目的で襲って来ないでもなかったのへは、
自警団というのじゃないが、そりゃあ頼もしい道場の先生がおいで。
昔はお隣りのシモツキ村にある道場の先生らが、
こちらへも気を配っててくださったが。
ここ何年かはこちらにも分家のような道場が出来。
そこのお若い師範がそりゃあお強い人なので、
途轍もない額の賞金首だったという手ごわい悪漢が襲い来ても、
あっさり片付けちゃあお役人へと引き渡してる。
聞いた話じゃあその師範せんせえもまた、
今でもお若いがもっとずっと若いころ、
遠い海にて名を馳せていた有名な剣豪だったらしくって。
そんなお人だもんだから、ちょちょいでやっつけて下さるだけのこと。
おいでにならんかったなら、この村は何度 崩壊してたか判らんぞ…なんて、
伸びちまった賊を引き取りに来たお役人様が、
もっともらしくお言いになったことが何度もあって。

  まま、そんな物騒な話も今は置いといて。

すぐの周縁にまで外界の荒れようが押し寄せようと、
この里だけは大丈夫なので。
住まわる人らは相変わらずに、
のんびりとした心持ちのまま、穏やかに日を送って暮らしてる。
陽が長くなり、夕方になってもいつまでも明るいものだから、
子供らがなかなか帰って来ない夕餉どき。
しょうがないねぇと、家事の手を止め、
みそ汁がぬるまぬうちにと、家人が幼子らを迎えに出向く。

 「お〜い、そろそろ帰らねぇか?」

里の家並みから少しばかり外れたところにある、小さな空き地。
も少し大きい子らは北にある鎮守の森なんぞまで伸してくが、
女の子や幼い子は、ここの広っぱで手つなぎ遊びやおままごとに精を出す。
他にもお迎えが来ていたか、すれ違う大人らと会釈を交わしつつ、
自分のところの和子へ向け、お〜いと伸びやかなお声を掛けたれば、

 「あ、お母さんvv」

このごろ延ばし始めている つややかな黒い髪、
さらと揺らして振り返った少女が、お花のように微笑って見せた。
そろそろの暑さからだろ、
腰の切り替えがないすとんとしたワンピースを着た愛らしい子で、
お友達に“じゃあね”と手を振ると、たかたかと駆けて来る様も愛らしく。
大好きな母の元、笑顔でやって来た娘御だったが、

 「どしたんだ? 何かシンコクそうだったけど。」
 「…え?////////」

仲良しの何人かと、いつものように広がって遊ぶじゃなく、
お地蔵様のところに固まって、何かしら話し込んでいた。
小さな額を寄せ合うようにし、
しゃがみこんだ足元へ棒っきれで何かしら書く子もいてと、
妙に熱心に語らい合っていたのが見えて。
だが、まだまだお喋りに夢中になるよな年頃でもないのにねと、
それで気になったルフィだったらしくって。
そして、

 「えっとぉ…。///////」

ありゃりゃあ見られていたかと、今頃になって恥ずかしくなったか、
口ごもりつつ頬を真っ赤にしたのは、
彼の一人娘の みおというお嬢ちゃん。
連れ合い似の一人息子の方は、先年から道場で暴れ回るのが日課になっており。
こんな風にお外で遅くまで遊んでいるのは稀な身となってしまったので。
こうやってのお迎えの時間は、
そのまま母と娘の気の置けないお喋りの時間とも なっており。
まだまだ家事の幾つも任されてないせいか、
いつまでも子供のそれ、どこか不器用そうな作りの、
それでもやわらかくて暖かい母の手を。
そちらさんもまだまだ幼い手で、
えっとね、うんとねと、含羞みながらきゅきゅうと握り、

 「…あのね? 今度の日曜は“父の日”でしょう?」
 「お? そうだったか?」

五月は子供の日とルフィのお誕生日が大にぎわいになり、
その翌週にやって来る“母の日”は、
家事を切り盛りして下さってるツタさんへのありがとうの日で。
そんなこんなでにぎやかな皐月の翌月に、
ちょっぴり奥ゆかしくも定められてる“父の日”だけれど。
ロロノアさんチでは、全くの全然“奥ゆかしい”扱いではなかったりし。

 「今年はどうしようって思って、皆に訊いてたの。」

だがだが、あんまり代わり映えのする話は聞けなかったか、
はふうとついた溜息はなかなかに悩ましげだ。
黒い髪やら大きな瞳、ふんわり柔らかな肌などなどが母親に似て、
そりゃあ愛らしい面差しに育ったお嬢ちゃんは、
雄々しくも頼もしいお父さんが大好きで。
ちょっと前までは真剣に、
大きくなったらお父さんのお嫁さんになるんだと思っていたほどの懸想ぶり。

 『こぉんな むっつりしてばっかな男のどこがいいんかね?』

無愛想だし気は利かないしなぁと、
恐れもなく言い放ったルフィだったのへ。
そんな男に惚れたからこそ、添い遂げんとしてなさる張本人が言ってもねぇと、
ツタさん以下、門弟のお兄さんたちを含めた家人の皆様が、
必死で苦笑をこらえたのは言うまでもない…という、おまけつきの逸話だったりし。
そんなお父さんへ堂々と、
贈り物をしつつ好き好きと言っていい日。
お誕生日もそうだけど、この日はあのね?
よそんチでも同じことをする日だから。
他の子に負ける訳には行かないっていう、
競争心みたいなものもくすぐられてしまうらしくって。

 “まあ、ゾロのこったから。
  みおのくれるもんなら…ギュッて抱っこしてって甘えるだけでも、
  十分に大満足しちまうんだろうがな。”

あそこまで子煩悩だったとは知らなんだと、
微妙に的を外しているような感覚でおいでのおっ母様であり。
……自分だって、ゾロ似の坊っちゃんを猫っかわいがりしてるくせにねぇ?
(苦笑)
表面上は別け隔てない構いようをしているけれど、
母ちゃんと呼ばれたおりの笑顔の輝きが微妙に違うのは、
もはや家人全員が知るところ…というのも、今は別な話なのでおいとくが。

 「お父さんは何が好きなの?」
 「う〜ん。基本的には好き嫌いもないしな。」

甘いものだって、苦手ってだけで食べられないことはなく。
お嬢さんがルフィの誕生日にと頑張ってお手伝いするケーキは、
一緒にご相伴にあずかっておいでだし。

 「まあ強いて言やあ“お酒”かな。」
 「それは知ってるけど。」

まだまだ幼いお嬢さんには自分では意味も価値も判らないもの。
よって、どのくらい喜んでもらえているのかがピンと来ないし、
いつも一緒というのは芸がないよな気もするのだろ。

 “それを退けちゃうと、というか。一番好きなのは俺やみおや坊主だし。”

おおお、ちゃっかりと自分が一番という順番になってやしませんか、奥方。
そうでなきゃ、海賊王にはなれんてか?(ヒューヒューvv)

 「〜〜〜。」

う〜んむ〜んと愛らしくも小首を傾げ倒しているお嬢さんを傍らに見下ろして、
こちらさんはさして真摯に“難問だ”とまでは思っていないおっ母様が、
のんびりほてほてとした歩調で家路へいざなう。
好きな人のこと、こんな幼いころからでも思い悩んでしまうのだから、

 “女の子ってのはよほどに考え込むのが好きなんだな。”

自分なんて昔も今も直情で通してるってのにと、
妙な方向へ感心してもいるルフィだったりし。
その直情さで惚れてしまったご亭主のこと、
カッコいいもんな、みおが惚れてもしゃあないかなんて、
にまにまと やに下がりつつも思い出しながら。
仄白い明るさの満ちる初夏の黄昏、
轍のあとも浅くなってる乾いた道を。
そんな果報者が待つ家へ、ゆっくりのんびり帰ってく、
よく似た母子でありました。





  〜Fine〜  09.06.17.


  *これがナミさんがベルちゃんに訊かれていたなら、
   『そりゃあ何たって女の人が好きなサンジくんだから』なんてな
   恐ろしいことを吹き込まれていたかも知れません。
(笑)
   扉絵で女装をしていたそうですが、
   オカマばかりの地とは、彼には地獄ヶ島に他ならず。
   ……反動でますます女好きになったらどうしましょう。
(大笑)

  *本当は、
   お父さんは実はモテたのかどうかというお話を書く予定でいたのですが、
   ……たしぎさんに追いかけられてたくらいじゃなかったか?
   今はベローナちゃんと一緒ですってね。
   でも眼中に入ってるとも思えないし。
(笑)
   誰とでも仲良しになれるルフィの方が、モテていたよな気もします。
   リカちゃんやアイサちゃんというお子様にも慕われてたし、
   海賊のアルビダだって“惚れたから”追ってる訳ですし。
   何とも妖麗な美女、七武海の女帝からも惚れられたらしいですしねぇ♪
   (新OPでハンコック様と向かい合う彼にドキドキが止まりませんvv)
   当人に自覚がないから、その分 もっと罪?

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

ご感想はこちらへvv

 
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